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タイミングも悪かったんだと思う。 大学時代の親友Mからメールを受信したのは、 連休初日の、今にも雪が降り出しそうな寒くて凍えそうな晩、 クリスマス商戦で賑わう街で、 誰もがラブラブカップルに見え、 ひとりで歩いているのは休日出勤で疲れきった自分だけ、 無性に寂しくてたまらない時だった。 いいなあ~、休み返上で仕事に邁進できるなんて、忙しい杏がうらやましい。 それだけ充実して、傾注できることがあるのは素晴らしいこと。 私もまた仕事に集中したいわ。1月から頑張るつもり。 M 何もかも手に入れた人に無邪気にうらやましがられると、却って傷つく。 大手企業に勤務する同窓生と電撃結婚、 子どもは写真入り年賀状の中で年々健やかに成長し、 庭付きの家も買って、犬も飼って、 それ以上、何を求めるの? 家族自慢、幸せ自慢してくれた方がマシだった。 独りでいる私を憐れんでくれた方がマシだった。 妻と母の役割を立派に果たしている人に、私は逆立ちしたって敵わない。 企業がどんなに立派なCSRを謳い、 "社会貢献活動"なるものを推進しようとも、 人が家庭を築き、 将来を担う次世代を生んで、育てること以上に価値ある"社会貢献"はないと思うから。 わかったふりして勝手に決めつけないで。 仕事は充実感ばかりじゃない、 自業自得なのはわかっているけれど、過労で人が変わりそうにもなる。 Mは今自分が置かれた状況をもっと誇りに思って、うんと自慢したっていいんだよ。 かじかんだ手で打った返信メールを、 私の婉曲な皮肉と受け止めたのか、 単なる愚痴と捉えたのか、 或いは、私の微かな焦燥感を見抜いたのか、 それから彼女のメールは途絶えた。 …もうすぐ二ヶ月経つんだなあ、と思う。 学生時代から何でも一番じゃないと気が済まなかった彼女は、 野心溢れるがんばり屋さんで、 かつては彼女のそういうところが好きで、尊敬もしていたのだけれど、 子育ても仕事も完璧にこなそうとするあまり、 ストレスから心の病を患い、 ここ数年、小康状態と再発を繰り返していた。 焦っちゃダメだよ、今はM自身が休まなくちゃ。 子育てが一段落すれば、仕事はそれからだってできるんだから。 仕事を辞めろという医者の勧告をも聞き入れなかった彼女だから、 我々の言葉に耳を貸すはずもなく、 24時間、家にいて子どもと向き合うことはどうしてもできないと、 通院しながらキャリアアップを求めて企業で働き続けてきたのだけれど、 治療に適した環境が整わないまま、症状は良くなったり悪くなったり。 休職→退職を経て転職を繰り返す彼女はとても痛々しくて、 そして時折、そんな彼女にイライラした。 どうして主婦業や母親業に徹しちゃいけないんだろうかと思う。 杏、私ね、鬱病にかかってもう8年になるんだけど、 いまだに親に病気のこと話していないんだよね…失望させそうで。 いい大学に入るために勉強させた、 いい会社に入るために大学に通わせた、 だから娘は会社で活躍していると思っているの。 涙を浮かべながら打ち明けてくれた彼女の言葉を思い出すと、 今、どうしているのか、 誰が彼女の聞き役になっているのか、 ふっと気になってしまう。 オトナになって人と仲違いすることは少なくなったけれど、 仲直りの仕方も忘れてしまった。 手術終わったら、Mの全快祝いの飲み会、企画するからね! 杏 過去のメールを読み返していたら、 昨秋、彼女が筋腫手術を受ける前に送ったメールが残っていた。 これは、まだ、有効だろうか。
by apricot0113
| 2008-02-11 03:50
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